Interview

研究者としてキャリア設計する上で不自由は感じない-大学機関から民間企業へ、あたらしい挑戦をする理由

AI Lab  山口 光太

 

今回は現在AI Labの主任研究員である山口光太さんへのインタビューです。山口さんは広告用画像の自動生成プロジェクトのリーダーを務めています。
AI Labはサイバーエージェントの広告事業のうちアドテクノロジー分野のプロダクト開発を行う横断組織「アドテクスタジオ」に属する人工知能技術の研究開発組織です。AI LabのメンバーはアドテクノロジーへAI技術の活用を図るべく各種課題に対してプロジェクト単位で研究を行い、プロダクトの品質向上、新たなサービスを生み出すための技術的な核を先んじて研究開発していく役割を担っています。

それでは、まず山口さんのこれまでのキャリアを教えてください。

私がAI Labに入ったのは2017年のことですが、それまでは2014年に米国ニューヨーク州のStony Brook大学でコンピュータ科学のPhDを取得後、2014年から2017年まで東北大学にて助教を勤めていました。博士課程の頃からずっとコンピュータビジョン分野を専門に研究をしており、特にWebデータからの質感の学習、服飾と人の自動認識、画像を通したファッションと社会分析、それから画像と自然言語の関係理解に関する論文を過去に発表してきています。インターンシップで企業に行っていたこともありますが、前職含め大学院からずっと学術研究を続けてきた形になりますね。

2018年度前期(2017/10 – 2018/03)では、サイバーエージェントグループ全体でベストエンジニア賞※を受賞されていましたが、受賞に至った取り組みと感想を教えて下さい。

社内で受賞と聞いてアレ?と思ったのですが、きっと知人の研究者のVicente Ordonezらと一緒に書いた論文がCVPR 2018という権威ある国際会議に採択されたことが直接のきっかけでしょうね。今回の研究は学習済みの深層学習モデルの推論方法に関する提案なのですが、前年のCVPRでVicenteに現地で会ってからいろいろディスカッションして着想を得たところから協力して取り組めたのが良かったと思っています。AI Labでは外部研究機関とも積極的に連携して研究を進めることができるのがいいところだなと。また、この半年は他にもAI Lab全体の研究の進め方や組織のマネージメントについて考えたりもしていました。

※ベストエンジニア賞・・・サイバーエージェントグループ全体の正社員を対象にエンジニア・研究者を含む技術職1000名以上の中から半期ごとに選出される社内表彰です。

改めましておめでとうございます。
では次に、大学機関から民間企業に転職した理由というものはありますでしょうか。

いくつか理由らしいものはあるのですが、一番大きな理由として挙げたいのは自身の成長が期待できる環境で仕事をしたいと思ったからです。前職までは学生時代含め長い間大学組織で研究を続けてきたわけですが、それだけにアカデミック領域でできることできないこと、努力して到達できるところはある程度理解しているわけなんですよね。それで例えば大規模実務データを扱ってみたいとか、社会実装でインパクトを与えたいとか、あるいは事業とともに成長するというのは民間企業ならではのできることなんですが、自分の職務に任期があったこともあって、こういった新しい経験を積んでみたいという意欲が湧いてきたのが転職のきっかけでしょうか。

大学と民間企業での研究活動を経験されて、感じられたことや気づきはありますか。

一番大きな違いは事務作業や組織運営業務が減り、研究開発に集中しやすくなったことが挙げられます。例えば大学での助教業務は大きく分けて研究室運営、大学学務、教育、学会活動、そして自身の研究活動です。これらの業務割合は分野やポジションによるのですが、自分が助教だった当時で自身の研究に費やせたのは多くて20%-30%程度ではないかと思います。幸いにして自分は研究予算を確保できていましたが、講座制を取る日本の大学では助教は研究室運営にかなりのエフォートを割く必要があるのではないでしょうか。

また、研究の目的や予算も大学とは大きく異なるところです。アカデミックな研究であれば自身で自由な研究計画を作成して競争的予算を獲得するのが一般的だと思いますが、企業では基本的に会社事業に沿ったテーマで研究を計画します。これは良し悪しがあって、研究だけでなくビジネス理解が必要になる反面、ビジネス現場の実務データが利用できるという利点もあります。事業と自身の研究領域がマッチしている必要があることは、弊社に限らず民間企業一般の研究職に求められる点ですね。事業の成否に伴って取り組むべき課題も変化してくるため、例えば科研費のように年間計画を立てて期限が来たら終了という形ではなく、上手くいったら継続、そうでなければ見直しという形で進むと考えます。Publish or perishのようなプレッシャー主導で業務をするわけではないので、心理的に余裕を持って研究に取り組めるとは思います。

逆にAI Labに所属していてもあまり違いがないものは、例えば社外での学会活動があると思います。学会組織の運営や、講演者として招待され研究会で講演することもあり、これは大学に所属していた時と変わりません。AI Labとしても必要があれば学会の企業スポンサーとして登壇することもありますし、国内外問わず各学会への登壇や聴講参加についても、意義がきちんと説明できるものであれば参加が制限されるようなことはありません。教育も主業務にはありませんが、学生の代わりに若手社員やインターン生を指導することも多々あるので、教育に関わることが全くないわけでもありません。

現在の研究環境について教えてください。

AI Labでは複数プロジェクト合わせて業務時間の70%以上は研究開発に費やしています。研究対象は会社内の業務データとなることが多いですが、アカデミアでは触れることのできない非公開大規模データを扱うことができたり、大学教員の時と大きく変わらないスタイルで若手社員の成長を見守ったり、学会で研究発表をしています。私はコンピュータサイエンス分野出身だったこともあり業務データに対し過去の研究経験を生かしながらPhDならではの難しい研究課題解決方法を期待されている点は強く感じますし、最もやりがいを感じるところです。研究以外の時間は社内部署間の調整やイベント企画、広報、人事関連の業務が入りますが、業務が電子化され効率が良いためこれまでのところ負担は少ないように感じます。

私自身、心理面での余裕を持ちながらも難しい課題に挑戦できている点、以前と同じように学会発表や研究者の交流を続けられている点、業績を積み上げることで適切に評価がなされ自分自身の成長を感じられるようになった点がとても良いように思います。民間企業ならではの未熟な研究組織体制や部署の壁というのも存在しますが、逆にその組織を成長させていくためにPhD取得者が大いに活躍できるチャンスがあるという実感もあります。昨今はアカデミアと民間企業の間での人材流動もよく聞くようになり、研究職としてキャリア設計する上で不自由は感じません。コンピュータサイエンス分野ではGoogleやFacebookのようなハイテク企業から最先端の研究が生まれるような状況になっており、最近は企業研究者として基礎的な研究と実務を結びつける面白い課題に心置きなく挑戦できる環境になってきたように思います。高度な技術的内容を論文や学会発表という形で的確に人に伝えられる能力を持った博士人材はますます貴重になっています。

最後に、今後取り組んでいきたいことについて教えて下さい。

短期的には実務的課題を解決する方策に取り組みたいですね。もともと研究でもWebからデータを集めてきて研究をするスタイルが多かったのですが、やはり学術研究と実務の違いというのも大きいので、双方での成功例を作り出す経験を積んでみたいという想いがあります。長期ではAI Labで開発した技術を何らかの形で社会に還元させていきたいと思っています。論文というのも一つのフォーマットですが、社会実装にはいくつものやり方がありますから。

山口さん、ありがとうございました。

※ CVPR2018で山口が発表した資料はこちら Feedback-prop: Convolutional Neural Network Inference under Partial Evidence
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山口 光太AI Lab 

2014年に米国ニューヨーク州のStonyBrook大学でコンピュータ科学のPhDを取得後、2014年から2017年まで東北大学にて助教として勤務。2017年にAILabに入社し、広告クリエイティブに関わる自動生成プロジェクトのリーダーを務める。

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